これも今は昔、中納言・源師時という人がいた。
その中納言師時のもとへ、あるとき、黒くて、たいそう裾の短い不動袈裟というのを着て、
首には木練子の念珠をぶらさげた法師がやってきた。
師時が、
「あなたは、どういう僧侶か」
と尋ねると、法師は、ことのほか神妙な声をあげて、
「浮き世のはかなさ耐えがたく、生死の境を煩悩とともにさまようのは無益だと悟った我こそ、
ひと思いに煩悩を切り捨て、この境遇より解脱しようとする聖者である」
「煩悩を切り捨てるとは、どのようにするのか」
「うむ。ご覧あれ」
と言って、法師が自分の衣の前をまくって見せれば、
股ぐらにあるべき、まっすぐなものが無くて、もじゃもじゃした髭があるばかりだった。
師時は、
「何と不思議なお人じゃ」
と見ていたが、そのうちに、どうも、下の袋が大きいような気がしてきたから、
「おい誰か」
と人を呼び、やってきた二三の従者に、
「この法師を取り押さえろ」
法師は、神妙な顔付で、阿弥陀仏を唱えながら、
「どうとでもするが良い」
と、あわれげな声をして、足を広げて瞑目するので、師時はさらに、
「股を広げさせよ」
そして、十二三歳の若くてかわいらしい従者を呼んできて、
「この法師の股ぐらの上を、手でなでなでしてやれ」
と命じて、そのままふっくらとした手でこすらせた。
そのうちに、この法師は、
「今はもう、わしにはそんなものは……」
と言い出すので、師時、
「良くなってきたと見える。もっとさすってやれ。それそれ」
「何ということをするのだ。わしにはもう……」
と言うのを、さんざんに揉みさすっているうちに、毛の中から、
ふらふらと、松みたいに大きなものが出てきて、腹にすわすわと打ち付けるものだから、
師時をはじめとして一座の者は声を上げて笑い、
法師もまた、ひっくり返って笑うしかなかった。
これは、例のまっすぐなものを袋の方へ入れ、糊で毛を取り付けて、
あんなことを言いながら人を騙し、物乞いの材料にしようという、生臭坊主だったようだ。
原文
中納言師時法師の玉茎検知事
これもいまはむかし、中納言師時といふ人おはしけり。其御もとにことのほかに色くろき墨ぞめの衣のみじかきに不動袈裟といふけさをかけて、木練子の念珠の 大なるくりさげたる聖法師入きてたてり。中納言「あれはなにする僧ぞ。」とたづねらるゝに、ことの外にこゑをあはれげになして、「かりの世にはかなく候を しのびがたくて、無始よりこのかた生死に流轉するは、せんずる所煩惱にひかへられて、いまにかくてうき世を出やらぬにこそ。これを無益なりと思とりて、ぼ んのふをきりすてゝ、ひとへにこのたび生死のさかひをいでなんとおもひとりたる聖人に候。」といふ。
中納言「さて煩のふをきりすつとはいかに。」ととひ給へば、「くはこれを御らんぜよ。」といひて、衣のまへをかきあけてみすれば、まことにまめやかのはな くてひげばかりあり。「こはふしぎのことかな。」と見給ほどに、しもにさがりたるふくろのことのほかにおぼえて、「人やある。」とよび給へば、侍二三人い できたり。中納言「その法師ひきはれ。」との給へば、ひじりまのしをして、あみだ佛申て「とくとくいかにもし給へ。」といひて、あはれげなるかほけしきを して、あしをうちひろげておろねぶりたるを、中納言「あしをひきひろげよ。」とのたまへば、二三人よりて引ひろげつ。さて小侍の十二三ばかりなるがあるを めしいでゝ、「あの法しのまたのうへを手をひろげてあげおろしさすれ。」との給へば、そのまゝにふくらかなる手してあげおろしさする。とばかりあるほど に、この聖まのしをして「いまはさておはせ。」といひけるを、中納言「よげになりにたり。たゞさすれ。それそれ。」とありければ、聖「さまあしく候。いま はさて。」といふを、あやにくぞさすりふせけるほどに、毛の中より松だけのおほきやかなるものゝ、ふらふらといできてはらにすはすはとうちつけたり。中納 言をはじめてそこらつどひたる物どももろごゑにわらふ。聖も手をうちてふしまろびわらひけり。
はやうまめやか物をしたのふくろへひねりいれて、そくひにて毛をとりつけて、さりげなくして人をはかりて、物をこはんとしたりけるなり。狂惑の法師にてありける。
適当訳者の呟き
師時さん、やりすぎです。
中納言・源師時:
みなもとのもろとき。(1077-1136年)
院政期の貴族で、歌が上手だったようです。
日記「長秋記」が貴重な時代資料になっているとか。
妻が6-7人いて、毎晩それぞれの妻のもとを渡り歩いていたみたいですよ。
下ネタ大好きなんですね。
まめやか物:
まめやか=まっすぐ。
男の人の股ぐらにあって、まっすぐ、ぶらんと垂れ下がっているものです。
今は廃れた隠語ですね。
要するに、タイトルの「玉茎」のことですが、それが本当に袋へ入るのかは知りません。
すわすわになるようです。ビンビンー。
髭、毛:
股ぐらにあって、もじゃもじゃしているやつです。別名陰毛。
ちなみに、チンコをざっくり切る修行は、
羅切(らせつ)といって、無いことではないみたいです。
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