大納言の伴善男は以前、佐渡国郡司の従者をしていた。
そして任地の佐渡で、
善男は、奈良の西大寺と東大寺をまたいで立っている夢を見た。
そのことを妻に語ったところ、
「それ、あんたの股が裂かれるって夢じゃないの」
とひどいことを言われたものだから、善男は、
「つまらないことを喋ってしまったものだ」
とガッカリして、ともかく、主人の郡司の屋敷へ出かけることにした。
さて郡司は、観相の名人で、善男からその夢の話を聞いたところ、
日頃はまったくそんなことしないのに、
にわかにごちそうを並べ、座布団まで差し出してくるから、
善男は内心、
「その気にさせておいて、女房の言ったとおり、
あとで股裂きにでもしようと言うのじゃないか?」
とビクビクしていたが、郡司がかしこまって言うには、
「あなたはたいへん良い夢を見た。
これにより、そうとうな高位へのぼることができるだろう。
だがそれをつまらない人間に喋ってしまったため、
最後には何かの事件で罪をかぶるに違いない」
やがて善男は、さる家に養子に入り、
上京して大納言にまで昇進したが、最後には犯罪を被ることとなった。
郡司の言葉どおりとなったのだ。
原文
伴大納言事
これもいまはむかし、伴大納言善男は佐渡國郡司が從者なり。彼國にて善男夢にみるやう、西大寺と東大寺とをまたげてたちたりと見て、妻の女にこのよしをか たる。めのいはく、「そこのまたこそさかれんずらめ。」とあはするに、善男おどろきて「よしなきことをかたりてけるかな。」とおそれおもひて、しうの郡司 が家へ行むかふ所に、郡司きはめたる相人也けるが、日來はさもせぬにことのほかに饗應して、わらふだ〔円座〕とりいでむかひてめしのぼせければ、善男あや しみをなして、「我をすかしのぼせて妻のいひつるやうにまたなどさかんずるやらむ。」とおそれ思ほどに、郡司がいはく、「汝やんごとなき高相の夢みてけ り。それによしなき人にかたりてけり。かならず大位にはいたるとも、こといできてつみをかうぶらんぞ。」といふ。しかるあひだ善男縁につきて上京して大納 言にいたる。されども犯罪をかうぶる。郡司が詞にたがはず。
適当訳者の呟き
伴善男:
とものよしお。有名な、応天門の変で失脚した人です。
130年ぶりに大伴氏で大納言に昇進し、栄華を極めた人ですが、
応天門炎上事件で、ライバルを犯人に仕立てようとしたところ、
自分とその子らが犯人だと逆に密告されて死罪(のち一等許されて流罪)になりました。
応天門の変は、国宝の伴大納言絵巻(ばんだいなごんえまき)で、きれいな絵を見ることができます。