【前半に戻る】
帰宅してみると、女房のばあさんが、
「おやまあ、その顔はどうしたんだ」
と言うから、これこれのことがあったんだと伝えると、
「それはおそろしいことだったねえ」
としきりに感心していた。
さてこのこぶ爺さんの隣に、こぶ爺さんとは逆の、
左頬に大きなこぶを付けた爺さんが住んでいて、
こぶ爺さんの頬からこぶが消えたのを見るや、
「やい爺さん、おまえ、どうやってこぶを取り除いた。どこの医者に頼んだ。
教えろ、やい教えろ。わしもこのこぶを取ってやる」
「いや、これは医師に頼んだものじゃなくて、実はこれこれのことがあったんだ」
そう話してやると、
「ふうむ。よし、わしもその通りにして、取ってもらおう」
と、さらにあれこれ、事細かに事情を聞き出すと、隣の爺さんは、
こぶ爺さんに言われたとおりに、山の木の洞へと入り込み、鬼の来るのを待つことにした。
やがて、本当に、聞いたとおりの鬼どもがやってきて、車座に酒を飲み始め、そのうちに、
「この間の爺さんは参っておるか!」
と呼ばわるから、隣のこぶ爺さん、恐ろしいとは思いつつも、這い出てみると、鬼どもが、
「おう、爺さん、ちゃんと来てるな!」
と喜び、例の鬼リーダーも、
「よし、こっちへ来て、早う踊ってくれ」
と言うが、前のこぶ爺さんとは違ってこちらは踊りの才能は無く、おろおろと舞うばかり。
鬼リーダーはたちまち興ざめして、
「何だ、今回はひどいな。そうとう悪いぞ――おい、もうその質物のこぶを、返してやれ」
と命じ、反対の頬へこぶを投げつけさせたものだから、
隣のこぶ爺さんの左右にこぶが取り付いてしまったという。
無闇に人をうらやんではいけないということだ。
原文
妻のうば「こはいかなりつることぞ。」とゝへば、しかじかとかたる。「あさましき事かな。」といふ。となりにあるおきな左のかほに大なるこぶありけるが、このおきなこぶのうせたるをみて、「こはいかにしてこぶはうせ給たるぞ。いづこなる醫師のとり申たるぞ。我につたへ給へ。このこぶとらん。」といひければ、「これはくすしのとりたるにもあらず。しかじかの事ありて鬼のとりたるなり。」といひければ、「我その定にしてとらん。」とてことの次第をこまかにとひければをしへつ。このおきないふまゝにしてその木のうつぼに入てまちければ、まことにきくやうにして鬼どもいできたり。ゐまはりて酒のみあそびて、「いづらおきなは。まゐりたるか。」といひければ、このおきなおそろしと思ひながらゆるぎ出たれば、鬼ども「こゝにおきなまゐりて候。」と申せば、よこ座の鬼「こちまゐれ。とくまへ。」といへば、さきのおきなよりは天骨もなくおろおろかなでたりければ、よこ座の鬼「このたびはわろく舞たり。かへすがえすわろし。そのとりたりししちのこぶ返したべ。」といひければ、すゑつかたより鬼いできて、「しちのこぶかへしたぶぞ。」とて、いまかたかたのかほになげつけたりければ、うらうへにこぶつきたるおきなにこそなりたりけれ。
ものうらやみはせまじきことなりとか。
適当訳者の呟き)
物語的に、後半が駆け足なんだなあと思いました。
改めて読んでみると、鬼も、こぶ爺さんも、となりのこぶ爺さんも、
この物語には、悪人ってのが登場しない感じですね。
[4回]
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