これも今は昔、とある僧侶が、人様の家を訪問した折のこと。
屋敷の主人が酒などを勧めていると、氷魚の初物が届けられたので、
主人は珍しく思い、これも僧侶へ勧めた。
そうして、主人に何か用事があって、一度内へ入り、ふたたび客の前へ出てみると、
氷魚が不思議なほど減っている。
主人はどうしたことかと思ったが、
別に口に出して言うことでもないからと、ほかの会話を続けているうちに、
僧侶の鼻から、氷魚が一匹、にゅと飛び出たものだから、
主人は不思議に思って、
「そちらのお鼻から氷魚が飛び出ていますが、どういうわけですか」
そう言われた僧侶は、慌てて、
「こ、このごろの氷魚は、目鼻から降りてくるものにございますな」
と言ったものだから、一同、ハハと大笑い。
原文
ある僧人の許にて氷魚盗み食ひたる事
これも今は昔、人のもとへ行きけり。酒など勤めけるに、氷魚はじめて出で来たりければ、あるじ珍しく思ひて、もてなしけり。あるじ用の事ありて、内へ入りて、また出でたりけるに、この氷魚の、殊の外に少なくなりたりければ、あるじ、いかにと思へども、いふべきやうもなかりければ、物語し居たりける程に、この僧の鼻より、氷魚の一つ、ふと出でたりければ、あるじ怪しう覚えて、「その鼻より氷魚の出でたるは、いかなる事にか」といひければ、取りもあへず、「この比の氷魚は、目鼻より降り候なるぞ」といひたりければ、人皆、はと笑ひけり。
適当役者の呟き:
最後が、最後のオチがどうしても分らない……。
言い訳が強引だったというおかしさかもしれませんが。。。
氷魚:
ひを。ひうお。鮎の稚魚だそうです。氷のように透き通ってるとか。
目鼻より降りる:
これでみんなが大笑いするからには、これに似た言い回しの慣用表現があったと思うのですが、どうにも検索では分りません。
「頬が落ちる」とか、
「目から鼻に抜ける」=利口で物事を理解するのが素早いこと。判断が素早いこと。抜け目がなく、やる事が敏捷(びんしょう)であること。
どちらも違いますね。。。
[20回]
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