今は昔、ある木こりが、
山の管理人・山守(やまもり)に斧を取り上げられてしまい、
「困ったな。つらいな」
と思いながら、蔓草の杖をつきながら、とぼとぼと山を下りようとしていた。
これを見た山守。
「何かうまいことを言ってみろ。そうしたら斧を返してやる」
と言うので、木こりは、
悪しきだに 無きはわり無き世の中に よきをとられて我いかにせん
――悪い奴でさえ持たないのは良くない世の中に、斧を取られて私どうしたら良いの
と詠んだ。
それで山守も、歌で返事してやろうと、
「うう、うう」
と呻いたが、どうしても返歌できなかった。
ということで、斧は返されて、木こりはほっと一安心。
人はよく心にかけて、歌を詠まなきゃいけないということだ。
原文
樵夫歌事
今は昔、木こりの、山守に斧(よき)を取られて、「わびし、心うし」と思て、つら杖うちつきておりける。山守(もり)見て、「さるべきことを申せ。とらせん」といひければ、
あしきだになきはわりなき世中によきをとられて我いかにせん
とよみたりければ、山守、返しせんと思て、「うゝ、うゝ」とうめきけれど、えせざりけり。さて、斧(よき)返しとらせてければ、うれしと思けりとぞ。
人はたゞ、歌をかまへてよむべしと見えたり。
適当訳者の呟き
歌は訳せませんね。。。
斧:
よき。手斧のことを、昔は「よき」と言ったらしいです。
湖から突き出る、すけきよの足、で有名な「犬神家の一族」では、「よき」「こと」「きく」が重要キーワードになってました。
あしきだに――の歌:
こんなもの訳せません。
無粋な解説ですが、「き」尽くしなのですね。あしき、なき、わりなき、よき。
[12回]
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