これも今は昔。
後朱雀院が、病にかかられ、重篤になられた際、
このまま地獄へ落ちるのではないか……と、
死後のことをお気になされた。
そんな折、夢に、御堂入道・藤原道長がやって来て、
申し上げるには、
「丈六の仏様をつくる者は、子孫に至るまで決して悪道に墜ちることはございません。
私は多くの丈六仏をおつくりしました。
後生の御菩提に、疑いを持たれてはいけません」
これを受けて、後朱雀院は明快座主へ仰せつけ、
高さ一丈六尺の佛をお造りになった。
そして、それを、比叡山の灌仏院へ安置された。
原文
後朱雀院丈六の佛作り奉り給ふ事
これも今は昔、後朱雀院例ならぬ御事、大事におはしましける時、後生の事畏れ思し召しけり。それに御夢に、御堂入道殿参りて、 申したまひて曰く、「丈六の佛を作れる人、子孫に於て、更に悪道に堕ちず。それがし多くの丈六をつくり奉れり。御菩提に於て疑い思し召すべからず。」と。これに依りて明快座主に仰せ合せられて、丈六佛を造らる。件の佛、山の灌佛院に安置し奉らる。
適当役者の呟き:
短くて後味もすっきり。
後朱雀院:
ごすざくいん。後朱雀天皇。藤原道長(御堂入道)の孫にあたり、摂関政治絶頂期の天皇さまです。
病(肩への悪性腫瘍)により寛徳2年1月16日譲位、その2日後に出家、同日崩御。享年37――と出ました。
まさに譲位される前後のお話だと思われます。
丈六の佛:
じょうろくのほとけ。高さ「1丈6尺」の仏像。
1丈6尺は、約4.85メートルで、お釈迦様の身長がこのくらいだったという伝承に基づいているそうです。
大きいなあ。
ちなみに、この丈六サイズより大きいものを「大仏」と言うのだそうです。なるほどー。
[3回]
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