今は昔、
東国人で、和歌をたいへん好み、またよく詠む者がいて、
蛍を見た折、
あなてりや蟲のしや尻に火のつきて こ人玉ともみえわたる哉
――あな照るや、虫のケツに火がついて、小さな人魂のようにも見えるもんだ
実はこれは、東国人のように詠もうと、
紀貫之が詠んだものだという。
原文
東人歌よむ事
今は昔、東人の、歌いみじう好みよみけるが、蛍をみて
あなてりや蟲のしや尻に火のつきてこ人玉ともみえわたる哉
東人のやうによまんとて、まことは貫之がよみたりけるとぞ。
適当訳者の呟き
感嘆詞の類は、訳しにくいのです。
東人:
あづまうど、と振り仮名してありました。
田舎人、土人、野蛮人という扱い。
あな照りや
「あな」「や」はどちらも感嘆の類なので、「ああ照るよ」とか言えば良いのですが、
それだと相当、ださい気がします。
しや尻:
しゃ首、しゃ頭、などと同じ。「シャ」は、今でいうと、「コノ野郎!」の「コノ」みたいな意味。
訳すときは「くそ」と置き換えると分りやすいかもしれません。
とりあえず、ここでは下品に、「ケツ」としました。
こ人玉:
小人玉。小さな人魂。
[3回]
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