くうすけという、強力自慢の法師がいた。
彼は身内の僧侶もとで修行していた。
さて、ある時くうすけが、
「仏をつくり、供養しようと思う」
と言い出したから、それを聞く者は、
仏師に何か物を与えて作らせるのだと思い、仏師を家に呼んでやった。
くうすけは、
「三尺の仏をお造りしようと思う。御礼として、あなたに差し上げる物はこれである」
と、礼物を取り出して見せたから、仏師は、なかなか良いものが貰えるぞと、
早速、受け取って帰ろうとしたところ、くうすけは、
「仏師に礼物を渡したあとで、出来あがりが遅くなっては、
我が身も腹立たしく思うし、督促されることになる仏師も不愉快になる。
そうなれば仏を作る功徳も、甲斐の無いことになってしまう。
用意した品は、たいへんに良い物どもであるから、封をつけてここに置きなさい。
そしてあなたはここで仏を造れば良い。
お礼は完成させた日に、すべてまとめて受け取るが良かろう」
と言った。
仏師は、うるさい奴だと思ったが、良い礼物が多くもらえるのならと、
言われるまま、そこで仏を造っていると、
「仏師が自分の家で仏を造っているのであれば、自宅で物を食うであろう。
それであってみれば、ここにいて何か食おうとは言い出すまいな」
と、くうすけは何も食べさせようとはしない。
「でも、それもそうだから」
と、それから仏師は我が家で食事を済ませては朝早くやって来て、
くうすけの部屋で一日仏を造り、夜になって帰って行った。
やがて製作を続ける仏師が、
「いずれいただける礼物を当てにして、人から金を借りて漆を塗るよりは、
まず漆の代金分をまず頂戴して、仏に薄衣も着せて、
漆塗りへも代金を支払いたいのですが」
と申し出たところ、
「何故そのようなことを申すのか。
始めに、すべてまとめて支払うと決めたではないか。
礼物は、まとめて渡す方が良いに決っておる。
いちいち細かく与えるのは、悪いことである」
と言って与えないので、結局この仏師は、人から漆の代金を借りることとなった。
(
つづき)
原文
くうすけが佛供養の事
くうすけといひて、兵(つはもの)だつる法師ありき。したしかりし僧のもとにぞありし。その法師の「佛をつくり、供養し奉らばや」と、いひわたりしかば、うち聞く人、佛師に物とらせて、つくり奉らんずるにこそと思て佛師を家によびたれば、「三尺の佛、造奉らんとするなり。奉らんずる物どもはこれなり」とて、とり出でて見せければ、佛師、よきことと思ひて、取て去なんとするに、いふやう、「佛師に物奉りて、遅く作奉れば、わが身も、腹だゝしく思ふことも出でて、せめいはれ給佛師も、むつかしうなれば、功徳つくるもかひなくおどゆるに、このものどもは、いとよき物どもなり。封つけてこゝに置き給て、やがて佛をもこゝにて造り給へ。つくりいだし奉り給へらん日、皆ながら、とりてあはすべきなり」といひければ、佛師、うるさきことかなとは思けれど、物おほくとまつらまかしかば、「そこにてこそは物は参らましか。こゝにいまして、物くはんとやはたのたまはまし」とて、物も食はせざりければ、「さる事なり」とて、我家にて物うち食ひては、つとめてきて、一日つくり奉りて、夜さりは帰つゝ、日比(ひごろ)へて、つくり奉りて、「此得んずる物をつのりて、人に物をかりて、漆ぬりよりは漆のあたひの程は、先得て、薄もきせ、漆ぬりにもとらせん」といひけれども、「などかくのたまふぞ。はじめ、みな申したゝめたることにはあらずや。物はむれらかに得たるこそよけれ。こまごまに得んとのたまふ、わろき事なり」といひて、とらせねば、人に物をばかりたりけり。
適当訳者の呟き
あけましておめでとうございます。
今年も適当な宇治拾遺物語現代語訳をよろしくお願いします!
つづきます!
[2回]
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