宇治拾遺物語　現代語訳ブログ

巻九　（１０９）くうすけが仏供養の事（中）

（最初から）

　そんなこんなで、仏師は、仏を作り上げた。
　仏に御眼を入れるなどして、
「では、お礼の品をもらって帰ります」
　と言い出したから、
　くうすけは、どうしてやろうかと考えを回して、近くに小女が二人いたので、
「今日、仏師に、例のものを与えようと思う。何なりと取って参れ」
　と言って、部屋から出した。
　そして自分もまた、何かものを取って来るような顔をして、太刀を手に出て行く。
　その場にはくうすけの妻が一人、仏師に向きあって残った。

　さて、その場に残った仏師の方は、仏の御眼も入れたことだから、
　くうすけが戻って来たら、たくさん食べて、封をしてある礼物どもを確かめよう、
　家に持ち帰って、あれはそれに使って、それはこれに使って、と色々考えつつ、
　帰り支度をしているところへ、くうすけが、こそこそと入ってきた。
　そして、いきなり眼を怒らせて、
「俺の妻を盗む奴があるぞ、ようよう、おうおう！」
　と言うや太刀を引き抜き、仏師へ斬りつけんばかりに走りかかるものだから、
　仏師は、頭を打ち割られる――と魂消て逃げ出すのを、
　くうすけが追いつき、わざと刀を空振りして逃がしては、さらに追いかけて、
「妬ましや、妻を盗もうとする奴。おぬし、今度会った時は！」
　と、途中で睨みつけて帰って行くから、
　仏師は何とか逃げきって、ほっと息を吐いて思うには、
　辛うじて、頭を打ち割られずにすんだ……けれど、
「今度会った時は」
　と睨んだ相手に、このようなことをしやがってと腹立たしく思うものの、
　ふたたび顔をあわせれば、また「頭を割るぞ」と言われかねないと、
　千万の宝といっても命より大切なものはないのだからと、お礼の品物をとらず、
　そのまま隠れるのだった。

　そして家に帰れば、漆の代金を借りた人などから使いが来て、
　きつく催促されるから、仏師は何とか工面してその分を返済せざるを得なかった。

　さて、そんなふうにした挙句、くうすけは、
「立派な御仏を作り奉ったからには、どのようにして供養したら良いであろうな」
　などと言い放っているので、それを聞いて笑う者あり、憎々しく思う者もあったが、
「良き日を選び、仏供養をしよう」
　と、上役僧や、知人一同から供物を乞い取ると、講師の食事を用意させて、
　講師を招いたところ、その日になって、講師の僧侶がやって来た。

（つづき）

原文

くうすけが佛供養の事（つづき）
かくて、つくりはて奉りて、佛の御眼など入奉りて、「もの得てかへらん」といひければ、いかにせましと思まはして、小女子どもの二人ありけるをば、「けふだに、此佛師に物して参らせん。なにもとりて來」とて、いだしやりつ。我も又、ものとりて來んずるやうにて、太刀ひきはきて、出にけり。たゞ、妻ひとり佛師にむかはせて置きたりけり。佛師、佛の御眼入はてて、男の僧帰りきたらば、ものよく食て、封つきて置たりしものども見て、家にもて行て、その物は、かのことにつかはん、かの物はそのことにつかはんと、仕度しおもひける程に、法師、こそこそとして、入くるまゝに、目をいからかして、「人の妻まくものあり。やうやうをうをう」といひて、太刀をぬきて、佛師をきちんとて、走かゝりければ、佛師、かしらうちわられぬと思て、たち走り逃げるを、追ひつきて、きりはづしきりはづしつゝ、追ひ逃していうやうは、「ねたの妻やまきける。をの、のちにあはざらんやは」とて、ねめかけて帰にければ、佛師、逃のきて、いきつきたちて、思ふやう、かしこく頭をうちわられずなりぬる、「後あはざらんやは」とねめずばこそ、腹の立ほど、かくしつるかとも思はめ、見え合はば、又「頭わらん」ともこそいへ、千萬の物、命にますものなしと思て、物の具をだにとらず、深くかくれにけり。薄漆の料に物かりたりし人、つかひをつけてせめければ、佛師、とかくして返しけり。
かくて、くうすけ、「かしこき佛を造り奉りたる、いかで供養し奉らん」などいひてければ、このことを聞たる人々、わらふものあり、にくむも有けるに、「よき日取て、佛供養し奉らん」とて、主にもこひ、しりたる人にも物こひとりて、講師に前、人におつらへさせなどして、其日になりて、講師よびければ、きにけり。

適当役者の呟き：
悪い坊主だなあ。つづきます！

　

[2回]

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2012/01/16 (Mon) ◆宇治拾遺物語（巻９） Trackback() Comment(0)